フラギイのメモ

Twitterで書き散らしたことを体系化しようとした。

仮面ライダー555感想:9,10話

 オルフェノクの社会の中での立ち位置やどういう経緯で活動しているかが印象的な回であった。

 今回登場したゲストキャラクターの空巣犯・スネイルオルフェノク。彼が人を襲う経緯はこれまでのオルフェノクとは逆である。木場をはじめこれまでのオルフェノクが力をふるうには目的が先にあった。生前の恨みやその場の怒り、スマートブレインの任務などがありそれを叶える手段としてオルフェノクの力が据えられた形だ。まず目的ありきだ。

 それと対照的なのがスネイルオルフェノクだ。彼には生前の恨みといった人を襲う理由がない。使徒再生の本能以上に人を殺める忌避感が勝っており、スマートブレインの強制にもおびえながらとはいえかなり粘って拒んでいた(恐らくあと1,2回の拒否で彼がファイズの“見せしめ”の対象になっていただろう)。そんな彼が「1度やってしまえばなんてことはない」と自分の中にあると思っていた罪悪感がさほど大きくなく、力の優越感の大きさが勝った。それにより人を襲うようになってしまった。思うにオルフェノク使徒再生をおこなった場合、殺めた相手の死体が灰となって形に残らない。それが視覚的に罪悪感や嫌悪感を軽減してしまうのではないだろうか。証拠も残らないので今回の長田の様に露呈もしにくい。

 いずれにせよ、オルフェノクは「目的」、「力」のどちらが先にある場合でも人を殺める存在に転ぶ可能性がある。前回のオウルオルフェノクのようにスマートブレインの関知しないところで活動を繰り返す者もいる。これはオルフェノクが目的をもって製造された改造人間ともまた違う所であろう。

オルフェノクが人を襲う理由・経緯は多岐にわたるのだ。

 

 そんなオルフェノクたちを先導するスマートブレイン。今までは真理の父親が扇動しているのではないかと思われていたが、どうやら村上社長になってから過激化しているようだ。ここで見られるのは村上の手腕の確かさと、同時に急進的に進めたことによる基盤の弱さだ。彼に従わないオルフェノク、特に木場が言った「なぜあなたに行動の許しを得なければならない」はもっともだ。前述のようにオルフェノクとはスマートブレインが目的をもって製造したものではない。有体に言えば自身の肉体に変化が起きただけであり何かに所属したわけではない。オルフェノクの戦いは急進派によるもので歴史が浅いとみて間違いないだろう。

 また、意外とベルトを奪うには正当性が弱いのも見受けられる。唯一の根拠は真理の父の私物ではなくスマブレのものとのことだが、どこまで本当なのか現段階では確証がない。その上ベルトが何なのか、対外的に説明して公にするわけにもいかない。したがって今回の啓太郎のような行動に出られると、スマブレも力づくで奪い返すしかなくなるのだ。

 

 

 そういった大きなうねりの中、ミクロな人間模様も掘り下げられている。夢がない巧にとってはファイズとして戦うことは知らないうちにアイデンティティになっていたのだろう。積極的にヒーローになりたいかといえばノーだが、ファイズとして夢を守る戦いができなくなったのはなんだか釈然としない、そんな具合だ。あと、たっくんはやっぱり耳が良い。迷わず現場に一直線なあたりやっぱり彼はヒーローだ!

今になってオルフェノクになったことの今後を悩む海堂も興味深い。彼にとってそれほどまで心を占めていた音楽の大きさがわかる。肉体が怪物になったことよりも音楽の方が重要だったのだ。そしてその呪いが解けたことによってようやく普通のことに悩む余裕ができた。オルフェノクの力の優越感や使徒再生の本能は確かにあるが、その人の心次第ではそれらよりも優先されるものはいくらでもあり得るということだ。

 また、今回海堂ファイズを止めるために体を張った木場。仲間のために機械の異形の戦士に立ち向かうこともあれば、仲間を止めるためにもその力を使う。危うい境界線上を歩いている感のある彼だが今回に関してはやさしさといえる行動だろう。

 

ファイズ&オルフェノク

 村上が言うにはオルフェノクと戦うベルトなのに、オルフェノクが変身できてしまう…?これはいったいどういうことだろう。ベルトの適合条件は、例えば強靭な肉体でありそれに怪人たちが合致してしまっているだけなのだろうか。巧は耳が良かったり戦闘センスが良いので、きっとそうに違いない。

 今回、オルフェノクを戦わせるために使われたファイズのベルト。人を守るどころか人を襲うことを強制するために使われる。ある意味、紐づけされた力を直接的にふるう悪のライダー以上に恐ろしく「555のベルトは力でしかない。良いも悪いもリモコン次第」を表現している。

 またファイズオルフェノクとたたかう状況を「正義の味方」と評する啓太郎と、ただの仕事としか思ってない海堂視点の違いや、同じラフファイトでも巧ファイズと海堂ファイズで与える印象の差を出しているのが目を惹く。

 

 そしてなにより興味深いのが巧ファイズの未登場だ。複数ライダーが当然となった555放送時点でも主役ヒーローは必ず出さなければならないらしく、サブライダーメインの回でもどこかに少しは差し込まれている(ギルスやナイトが少年と交流する回などがその例だ)。だが本作品は「巧は変身しないが仮面ライダーファイズは登場している」という展開を見せることでノルマをこなしつつ、巧が戦力を奪われることによる感情や展開をじっくりと尺を割いて書くことが出来る。本作ならではの特徴だろう。