フラギイのメモ

Twitterで書き散らしたことを体系化しようとした。

仮面ライダー555感想:35,36話

 

巧のオルフェノクバレを通して様々な人物が掘り下げられた

 

 騒動の中心人物の巧。どうやらオルフェノクとしては特別な存在ではないらしい。

 白倉Pの著書で記されていた英雄の構成要素に「特異な出自」と「外部からの漂着者」というものがある。そこへいくと巧はオルフェノクとしては特別とまでは言えないものの、外部からの来訪者ではある(前者を満たしているのはむしろ流星塾生)。そういう意味では英雄でもありそうでもない、境界の存在と言えるだろう。こちらとむこう、敵と味方を分ける境界線上を彷徨う者なのだ。

 菊池家の空気を感じ取り自分から出ていく。弁明せず、自分がすべて背負う彼の不器用さだがそれを責めるものはもう誰もいない。草加でさえ黙って状況を見ているだけなのだから、巧の人となりはもう皆に伝わりきっている。

 

 

 そんな巧を必死に引き止める啓太郎。よくよく考えると彼はこの話数に至ってもまだオルフェノクの発生過程を知らない。生まれながらの怪物だと思っている可能性すらあるのだ。にも関わらず草加の巧は自分達を欺いていたという言葉に、「騙していたというのは違うと思う」という真実を突いた言葉を発することができた。近くにいて巧の人となりを見続けた結果だ。ここで啓太郎の愚直さが癒やしとなる。これには草加も「じゃあ今までどおりの生活ができるのか」と微妙に論点をずらした反論しかできない。

 真理と同様に生理的な恐怖感はありつつも巧のために必死に接しようとする。逃げ場がない二人切りのボートに乗るというのは、相当な覚悟の現れだろう。だから目に見えて震えが止まらなくても巧は彼への感謝がまず現れるのだ。

 

 巧を引き留めようとするもう一人、真理。彼女の中に存在するオルフェノクへの生理的な忌避感。これは理屈ではない。

 その直前に自分の命を助けてくれたのは巧だわかるという確かな直感力と彼への信頼を持っていることも見せている。この両翼の描写により、真理は表面的な差別心や失望でなく、本能的な忌避感というどうしようもないものに苛まれているのがわかる。だから誰が悪いのでもなくそれぞれが己の中の恐怖と戦っているのが見て取れるのであり、より哀しい事態に映るのだ。

 巧に怯えつつも巧以外がファイズになることにどこか釈然としないのもそうだ。

 

 

 巧と何度も剣を交えてきた木場は今回は巧の葛藤を吐露する良き友としての立ち回りが見受けられる。マンションのほか二人にも巧がオルフェノクであることを即座に情報共有したりなど、こういう冷静なときは的確な対処が頼りになる。

 視聴者視点では木場が己の過去と向き合えなかった場面も見えているが、巧たちにはかなり温厚に接し、相手が人間だと思ってる時期には身を呈して守ったり、またバイトで気兼ねがなく説教したりと良心的に交遊しているのでなんだかんだ、己を律する心と信頼を得るに足る部分はあるのだ。

 また、自分はオルフェノクではなくファイズとして戦ってきたと自認している巧からすれば、己はオルフェノクであると受け入れた上でスマブレとの戦いに命をかける木場は尊敬できる存在なのだろう。ファイズギアを託されるのもわかる。ここでファイズギアは、巧が立ち直るまで預かる…と、彼の意思を尊重しながらも彼の復活を待つことも同時に伝えるのが心地よい対応だ。

 

 そして対照的に迷いが見える草加は木場にも当たり散らす。木場と巧になぜオルフェノク同士で戦えるのか理解できない旨を話す。やはり人が人を殺す重さと同様に同族の命を奪う重さを理解しているからだ。だからこそ巧たちが同族と戦えるのは何か別の利益や目的がなければ不可能であるとおもい、「オルフェノクでありながらなんのつもりで同族と戦っている」と勘ぐるのだ。

 その一方で巧に出て行けとは言わないところに彼の葛藤が見える。もちろん彼の家ではなく啓太郎のものだろうという前提はあるのだが。巧に「これからどうするつもりだ」など問いかける。巧は憎むべきオルフェノクなので戦わなければならないと表面的には考えつつも、彼の本心を聞いてから覚悟を決めたい気持ちがあるのだろうか。

 ただ、巧は自分達を騙していたと自分に有利な言説を流そうとしているあたりはさすが。

 また流星塾のことを聞かれると真理にも声を荒げるあたり、やはり彼にとっては真理よりも過去の恨みを濯ぐ方が重要なのだろう。目についたのが啓太郎でさえ食が進まないときにも黙々と食べ続ける点だ。やはり彼にとって食事は楽しみというより戦の備えなのだろう。

 

 どうやらデルタの変身者に落ち着く三原。初変身で物語上の牽引力を使い切らない彼の迷いの描写が目を引く。2度の変身でも覚悟を決めきれない用心深さを見るに、思えば流星塾から距離を取るのは危機管理意識が高いとも言える。これまでは都度状況に迫られて奮起しているが、本当の意味で自己の動機づけになることは起きていない。

 

 巧がオルフェノクと知って自軍に取り入れようとする村上社長。約束と言ったことは守るが、巧みに言葉を操るのが見て取れる。彼の言う巧への切り札となる映像の下り、よく見ると「流星塾の面白い映像を入手した」「よつこそ」としか言っていない。この映像が編集や加工をしていたとしても、巧が犯人だとは一言も言っていないので嘘はついていないと主張できる狡さがある。

 ただ巧への処置に関しては外れたり澤田への見込みが外れたり、個人への処遇にはいまいち手腕が冴えない。実はなんでも自分で成し遂げてきたので他人を見る目や人事は得意ではないのだろうか?(ラキクロは単に倒した数字や目に見える活動で選抜できたとか)

 

 

今回顕著だが、この時期の平成ライダーは喧嘩する場面ではすすり泣きや嗚咽の音も入れているのがリアル感を高めている

 

 

ファイズ&オルフェノク

 ウルフオルフェノク。飛び道具も武器も使わず肉弾戦で圧倒。主人公が変身する姿なら派手な武器を持たせてもいいものの一貫して素手。その強さは己の拳を痛めて戦う巧の精神そのものといえる。オルフェノクとしては普通の存在だがファイズで蓄積した戦闘経験も相まって戦いなれしているのだろう。

 着ぐるみをよく見ると、演者の輪郭より小さいマスクを顔の前面部にかぶることで小顔効果を生み出していることがわかる。狼のシャープな印象を上手く醸し出している。

 

 ムカデとエビは、単純な格闘能力ではライダーに半歩ほど遅れを見せ始めているが、それでも盤外戦術でいくらでも埋められる差なのが未だ厄介である。

 

 

 

 木場ファイズ。車に助手席に組み上げ済みのベルトをおいてたり、マーカーを撃ってからキックの動作に入ったり几帳面なところが木場らしい。ファイズのベルトを使ってオクトパスを的確に倒しているあたり、性能を問題なく引き出せている。こういったところでも巧のライバルとして際立っている。